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犬の祖先はオオカミ。だから骨も大丈夫?

「オオカミだって骨を噛んでるし、犬にも大丈夫でしょ?」。そう思ったことがあるなら、下の野生のオオカミの歯を一度見てみてください。意外とボロボロです。

犬の祖先はオオカミ

「オオカミも骨を噛んでいる。だから犬にも大丈夫」

それ、本当ですか?


野生のオオカミにも、すり減った歯や折れた歯が見つかっています。
骨を噛めることと、歯を傷めずに噛めることは、別の話です。[2]

野生のオオカミでも、歯は折れる?


折れます。


ある調査では、調査したオオカミのほぼ半数に折れた歯がありました。[2]

オオカミは、骨を取り除いてもらった肉だけを食べているわけではありません。
獲物の肉を裂き、骨についた肉を食べ、環境によっては骨そのものも食べます。[1]

骨付き肉をほとんど食べない家庭犬と比べれば、骨の付いた肉を噛む機会はずっと多いと考えられます。

では、その歯はどうなっているのでしょうか。


2018年の研究では、アラスカのハイイロオオカミの頭骨標本から207頭分を調べた結果、

折れた歯が見つかったのは 207頭中103頭。
49.8%、ほぼ半分です。

ほぼ2頭に1頭。歯のすり減りも、144頭、69.6%に確認されました。[2]

もちろんすべてが骨を噛んだせいで折れたという意味ではありません。

しかし、「オオカミなら、硬いものを噛んでも歯は大丈夫」ではないことは十分分かります。

実際のオオカミの歯を見てみると

野生のオオカミBrutusの歯。前歯の摩耗と犬歯1本の先端の破折
写真:Dean Cluff / Government of the Northwest Territories。掲載元:米国地質調査所(USGS)。Public Domain。

米国地質調査所(USGS)が公開している、野生のオオカミ「Brutus」の写真です。

公開元の説明では、前歯はすり減り、犬歯も摩耗して先端が丸くなっています。そのうち1本は、先端が折れています。年齢は推定8〜10歳です。

「オオカミも骨を噛むから大丈夫」
でも、実際にはオオカミの歯も折れています。


骨を多く食べる状況では、歯に何が起きる?

骨の利用と歯の破折の関係を調べた、2019年の研究も見つかりました。
そこではアメリカ・イエローストーンのオオカミについて、死亡した時期の異なる頭骨標本を比較しています。

雪の残るイエローストーン川で、バイソンの死骸に近づくオオカミとワタリガラス
イエローストーン川で、バイソンの死骸に近づくオオカミとワタリガラス。写真:Ronan Donovan。

少なくとも1本、折れた歯があったオオカミの割合は、次のとおりです。

折れた歯があったオオカミの割合
個体が死亡した時期 調べた頭数 歯の破折があった割合
1996〜2006年 77頭 37.7%
2007〜2016年 83頭 64%

後の時期では、6割を超えるオオカミに折れた歯がありました。
頭数で見た割合は、約1.7倍です。[3]

なぜでしょう?

実はこの時期には、オオカミの数に対して獲物が少なくなり、より徹底的に骨まで食べる傾向が見られたそうです。研究者は年齢の違いも検討し、骨を食べる量の増加が、破折増加の主な要因と考えています。[3]


つまり、歯が破折する確率は骨を食べる(噛む)回数に比例して高くなるということが言えます。

オオカミが生きるために「食べ物として骨を利用すること」と、家庭犬に「歯のために骨を与えること」は全く話が別ということです。


オヤツとして加工した骨は、野生の骨と同じ?

もちろんオオカミは、犬用に加工された骨オヤツを食べていません。

市販の骨オヤツには、加熱、乾燥、燻製などの加工が施されています。その方法や温度は製品によって異なり、野生のオオカミが食べる骨と同じ条件ではありません。

しかし2017年には米国食品医薬品局(FDA)が、市販の「bone treats(骨のオヤツ)」について注意喚起しています。

挙げられたリスクは、消化管閉塞、窒息、口や扁桃の傷、嘔吐、下痢、直腸出血などです。[4]

問題は、加工方法ではありません。
硬い骨を噛み、割れた破片を飲み込むこと自体にリスクがあります。

「オオカミも骨を食べる」という話は、市販の骨オヤツの安全性を保証する根拠にはなりません。

 

でも、骨を噛むと歯がきれいになるのでは?

実際に歯石が減ったという研究はあります。

2016年の研究では、8頭のビーグルに生の牛骨を与え、12日間と20日間の試験で歯石の付着面積が減りました。[6]

ただし、8頭を対象にした短期間の試験です。家庭犬全般に対する長期的な安全性を示した研究ではありません。

歯石が落ちるメリットと、歯や消化器官を傷めるデメリット。
犬は与えられたものを噛みます。

それを選べるのは飼い主だけです。


「オオカミも食べる」は、安全の証明にならない

犬より強靭そうなオオカミ自身にも、歯の摩耗や破折があります。

獲物不足で骨までも食べていた時期には、歯の破折も増えていました。
さらに、加工された骨は野生の生骨と同じ条件ではありません。

「自然だから」「祖先も食べていたから」だけで、犬に与えるものを選ばない。


歯のケアが目的なら、愛犬の年齢や歯の状態に合う方法を獣医師に確認してください。歯の欠けや折れに気づいた場合も、早めの受診が必要です。[7]

犬が喜ばせるために、過酷な野生のリスクを負わせる必要はありません。


オオカミらしい食べ物を選ぶことより、目の前の愛犬の歯や健康を守ること。

シニア犬になってから後悔するよりも、今考えたいのはそこではないでしょうか。


関連記事:硬ければ、いい? 犬の鹿角・骨と歯の話

参考資料

  • タイトル画像:イエローストーン国立公園のハイイロオオカミ。記事中の研究とは別の参考写真。
    写真:NPS / Jacob W. Frank。掲載元:米国国立公園局(NPS)。Public Domain。


  1. Stahler DR ほか(2006)。Foraging and feeding ecology of the gray wolf (Canis lupus): lessons from Yellowstone National Park, Wyoming, USA. The Journal of Nutrition, 136, 1923S–1926S。オオカミの採食行動。
  2. Döring S ほか(2018)。Dental and Temporomandibular Joint Pathology of the Grey Wolf (Canis lupus). Journal of Comparative Pathology, 160, 56–70。頭骨207点を対象とした歯の調査。
  3. Van Valkenburgh B ほか(2019)。Tooth fracture frequency in gray wolves reflects prey availability. eLife, 8:e48628。オオカミにおける獲物の利用と歯の破折に関する研究。
  4. Fantner GE ほか(2004)。Influence of the degradation of the organic matrix on the microscopic fracture behavior of trabecular bone. Bone, 35, 1013–1022。200℃で加熱した牛の海綿骨を含む材料研究。市販の骨ジャーキーの製品試験ではない。
  5. VCA Animal Hospitals。Nutrition: Commercial Fresh Meals and Home-Prepared Recipes for Pets. 加熱した骨の破片による消化管閉塞・穿孔についての注意喚起。
  6. Marx FR ほか(2016)。Raw beef bones as chewing items to reduce dental calculus in Beagle dogs. Australian Veterinary Journal, 94, 18–23。8頭のビーグルに生の牛骨を与えた短期試験。
  7. 米国コーネル大学獣医学部。Risks from a fractured tooth. 硬い物による歯の破折と受診について。

※この記事は公開された研究や獣医学資料の紹介です。個々の犬への適性や診療の判断には、獣医師への相談が必要です。写真の個体について、歯の破折原因が骨だと確認されたわけではありません。

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